田根剛|未来の記憶 Archaeology of the Future

 先日、TOTOギャラリー・間と東京オペラシティ アートギャラリーで同時開催されている「田根剛|未来の記憶 Archaeology of the Future」を見に行った。

https://jp.toto.com/gallerma/ex181018/index.htm
http://www.operacity.jp/ag/exh214/

 田根剛はパリを拠点とする30代の若手建築家であるが、いきなり大きな国際コンペで最優秀に選ばれるという鮮烈なデビューで建築界に衝撃を与えた。この時まだ20代なかばという若さ。今時建築ではあまりないようなドラマチックなデビューだが、留学生の減少など最近日本の若者は国内にひきこもりがちという評が支配的な一方で、大谷翔平や大坂なおみなど若くして国内外に名を知らしめるアスリートたちも多くなり、日本を飛び越えて世界に存在感を示しているのを見ると、自分の若い頃より国や過去の常識などの枠にとらわれない人たちが増えているようにも感じる。

 さて、肝心の展覧会について。「未来の記憶 Archaeology of the Future」を共通テーマとして、TOTOギャラリー・間では「Search & Research」、東京オペラシティアートギャラリーでは「Digging & Building」というサブテーマがあり、前者が建築における思考と考察、後者がそれを建築化する手法と実践といったところだが、当然のことながら両者は渾然と絡み合っており、そこまで明確な役割分担がされているわけではない。ただ、スペースの大きさなどの関係で展示の仕方は大きく異なる。

 東京オペラシティは高い天井高と広いスペースを生かし、主要プロジェクトの大きな模型や、スタディ模型、敷地で発掘された遺物、古材、建築の素材などが併置されている。彼らのデビュー作であり代表作でもある「エストニア国立博物館」にもつながるような、博物館的展示であると感じた。そこに、彼の言う考古学(Archaeology)的思考(志向)の一端が見える。古材を支持体にしたり、自分の作品である模型と古い遺物を等価に並べるのは、アーティストの杉本博司にも通ずるものがある。

 TOTOギャラリー・間は、東京オペラシティに比べて天井高も低く、スペースも狭いため、3階は棚のような什器にスタディ模型や素材などが並べられ、こちらは博物館の倉庫(アーカイブ)のような展示となっている。中庭には模型が収められた木箱のような棚が設置され、模型を隙間から垣間見るしかないようになっており、東京オペラシティのように大きな空間の中で関係性を表現するというよりは、田根の整理・分類された思考プロセスを見せられているようだ。4階は四方を壁で囲まれた空間で、四方向に映像が投影される。4つの映像は完全にシンクロし、しかも床から天井まで壁全体がスクリーンとなっているので、その中での体験はあたかも実際にその場(田根の建築空間)に身を置いたような感覚を覚える。この映像体験のためだけでもTOTOギャラリー・間に行く価値はあるだろう。

 二つの展覧会は互いに補完関係にあり、両方見ることで田根の建築を浮かび上がらせようとしている。その中で見えてくる田根の考古学的アプローチは多面的で、日本の建築であれば日本の古建築を参照するといった単純なものではない。例えばtodoroki house in valleyでは、等々力渓谷の森から来る湿気をはらんだ地面(WET)と、風の強い斜面(DRY)という敷地が持つ2面性に着目し、世界の乾燥地帯と湿地帯の住居建築を参照しつつ、それらを組み合わせることによって非常にユニークな居住空間を生み出している。展示にもうかがえる地理、時間、空間スケールといった尺度を縦横無尽に横断するセンス。それが田根剛の建築を、どこか懐かしくもありながら、見たことのないものにしているのではないだろうか。東京オペラシティの展示では、ダンスの舞台装置や企業の展示ブースなど、領域横断的な田根の活動範囲の広さも垣間見ることができる。TOTOギャラリー・間は12月23日、東京オペラシティアートギャラリーは12月24日まで開催中。
(by清水)

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